10万人を超えるような大観衆が集まるスポーツは、そう多くはありません。その大観衆の視線を感じながら競走馬とともにターフを駆ける騎手は、競馬という華やかなスポーツにおける主役といえます。
自らの体と技術で競走馬をコントロールし、時速60キロを超える中でライバルたちと競い合う。力と技の限りを尽くし、3000メートルを走ってわずか数センチ差という勝負の世界を生きるその姿は、まさにプロアスリートと呼ぶにふさわしいものです。
若すぎると体の強さや経験が足りないし、年をとれば筋力や判断力などが衰える。どんなスポーツにも、一線級の力を発揮できる年数を示す「競技年齢」と呼ばれる考え方があります。そして騎手は、その競技年齢が比較的長い職業といえます。
競馬学校を卒業した騎手がデビューできるのは、18歳から。若さや勢いでいきなり活躍する騎手もいますが、それが20代、30代とキャリアを重ねるうち、経験が豊富になり、技術も高まっていきます。40代に円熟期を迎える騎手も珍しくはありません。
たいていのスポーツでは現役を退かなければならない50代でも、トップジョッキーとして活躍する例はたくさんあります。シンボリルドルフなど多くの名馬とコンビを組んだ岡部幸雄元騎手は53歳でGI レースの天皇賞(秋)を勝ち、56歳まで現役で活躍しました。騎手は、プロスポーツの中でも特に長く続けられる職業といえます。
騎手の収入は、騎乗したレースの結果に応じて馬主から支払われる進上金(成功報酬)が中心になります。2023年の有馬記念の1着賞金は5億円であり、賞金の高いGⅠレース等で優勝すれば、進上金も高額になります。
その他、レースに騎乗するごとに支払われる騎乗手当などもあります。
騎手という職業は活躍次第で大きな収入を得ることができます。それも騎手という職業の魅力のひとつといえるでしょう。
長い騎手人生の中には、うまくいかない時期や、ケガで苦しむ時期もあります。誰もが最初から華々しいスタートダッシュを切ることができるわけでもありません。それでも、自分を信じて努力を続ければ、いつかそれが実を結ぶ時が来ると信じて頑張る。それは他のプロスポーツとも同じです。
競馬の世界にも、そのような例はたくさんあります。そんな物語もまた競馬の魅力のひとつであり、時にファンは、そういう物語により強く心をひかれ、大きな声援を送ってくれるのです。
競馬の騎手は、男性と女性が同じフィールドで対等に競うことができる、数少ないアスリートのジャンルの一つです。
特に21世紀に入ってから、女性騎手の活躍は世界中で当たり前の光景になってきました。イギリスからも、アメリカからも、女性騎手のG1レース制覇のニュースが舞い込んできています。日本でも、2002年の中山大障害で、ニュージーランドから来日、騎乗したロシェル・ロケット騎手が見事に優勝を飾っています。
こうした傾向は、今後、より加速していくでしょう。女性騎手が輝くのは、まさにこれからなのです。
いかに騎手の競技年齢が長いといっても、引退の日は必ずやってきます。あるいは怪我などで、志なかばでムチを置くこともあるでしょう。
騎手には、馬に関してのプロであるということはもちろん、何より「馬に上手く乗れる」という、他に代えがたい技能があります。そして競馬の世界には、そんな引退した騎手の能力を活かせるセカンドキャリアの場がいくつも存在しています。
調教師は馬を管理し、鍛える仕事で、騎手と並ぶもう一つの競馬の「主役」といえるでしょう。また厩舎で働くスタッフのうち、普段の調教に騎乗する調教助手という職業も騎手の再就職先として多く見られます。トレーニング・センターの外には民間の牧場もたくさんあり、厩舎と連携を取りながら日夜、馬を育てています。こうした施設で働くケースもあります。