騎手のもっとも重要な仕事は週末のレースで騎乗することですが、実はレースのない日にも、トレーニング・センター(以下トレセン)で競走馬の調教や厩(きゅう)舎作業などさまざまな仕事をこなしています。ここでは関東の若手騎手を例にとって、そんな平日の一日を追ってみましょう。
4:50
この日は木曜日。所属厩舎に集合して調教を開始するため、トレセン構内にある独身寮を出て厩舎へ向かいます。
トレセンの構内には、騎手のための独身寮があります。住んでいるのは主に若手騎手。その他に、トレセン構内には騎手用の舎宅も用意されています。
5:00
厩舎のスタッフが調教に向けた準備をはじめます。騎手はそれを手伝ったり、その日の調教内容や、次の出走予定レースなどについて、厩舎スタッフと打合せをします。
トレセンの調教コースは、季節などにより開場時間を変えています。(夏は早く、冬は遅い。)
平日は、朝の5時から7時の間に開場時間が設定されます。この日の開場時間は7時。この厩舎の場合は、打合せや調教に向けた準備のため、開場時間の2時間前に集合しています。
調教の準備が整った馬は、調教コースに入る前に、厩舎の周りなどで準備運動を開始します。
6:10
この日、調教を担当する馬に騎乗し、厩舎の周りをじっくり周回します。「乗り運動」などと呼ばれていますが、全力で走る馬のウォーミングアップですのでこれも重要な仕事となります。
6:30
この厩舎の場合は、馬の準備運動が終わってから、厩舎で調教師が各馬の調教コースや内容について指示をします。
この馬は、坂路コースでの調教を2回するように指示されました。
トレセンには、馬場の素材(芝・ダート・ウッドチップ・ポリトラック)や形態(平地・障害・坂路)などが異なる複数の調教コースがあります。それぞれ異なる特徴を持っており、どのコースでどのような調教をするのかは、まさに調教師の腕の見せどころです。
美浦トレセンには南馬場、北馬場、坂路と、計3か所の調教馬場があります。北馬場は障害練習などがメインで、通常よく使用されるのは南馬場と坂路コースです。南馬場には、Aコース(ダート1370m)、Bコース(ウッドチップ)、Cコース(芝、ニューポリトラック)、Dコース(ダート2000m)と、4本の異なるコースを持つ広い馬場で、多くの馬がここで調教されています。
この他、トレセンには競走馬用の円形スイミングプールがあり、脚に負担をかけたくない馬などの調教に使用されています。
7:00
坂路コースの入口付近で準備運動を続け、7時に馬場が開場されるとコースに入ります。
7:30
指示通りに坂路コースで2回調教した後、クーリングダウンをしながら厩舎へ戻ります。
厩舎で騎手は調教した馬を、厩舎スタッフに引き継ぎ、別の馬に騎乗し再び調教コースに向かいます。
1日に騎手が調教を担当する馬の頭数は決められていませんが、概ね1日3頭から4頭、多い日で5頭から6頭の調教をしています。
トレセンの調教は、通常、火曜日から日曜日の週6日間(月曜日は調教コースを閉鎖)行われています。特に水曜日は「追い切り」と呼ばれる週末の出走レースに向けた強い調教(走行タイムが早い調教)を行う馬が多く、騎手も調教を担当する頭数が増えることになります。
厩舎や調教内容などにより異なりますが、1頭の調教にかける時間は、クーリングダウンも含めて、概ね30分から1時間程度です。
7:50
2頭目の調教は南馬場を使用します。調教師からの指示は、「角馬場で軽めの運動をした後にウッドチップコースを1周半すること」でした。
調教コースの内側には「角馬場」と呼ばれる、周囲を柵で囲った運動用の広いスペースがあります。ここでは、速く走るのではなく、準備運動や馬に人間の指示を覚えさせるための調教などに使用します。
8:30
2頭目の調教を終えました。今度は厩舎まで戻らずに、調教スタンド前で調教した馬を厩舎スタッフに引き継ぎました。
8:35
調教した馬を厩舎スタッフに引き継いだ後、朝食を食べるため、調教スタンドにある食堂に向かいました。
調教スタンドには、調教師や騎手以外に競馬専門紙などマスコミの記者なども集まっています。騎手はここで、週末の騎乗予定馬や調教を担当した馬などに関する取材対応もしています。
9:20
3頭目は、所属厩舎ではない他の厩舎から調教を依頼された馬です。調教スタンド前で騎乗し、調教コースへ向かいます。調教師からは、調教コース内に設置してある発馬機を使って「発走練習」をするようにと指示されました。
10:00
調教スタンド前で調教した馬を厩舎スタッフに引き継ぎ、この馬の調教師に調教内容を報告します。
10:10
再び調教スタンドへ戻り、週末の騎乗予定馬について、調教師や厩舎スタッフと打ち合わせをします。
10:50
所属厩舎へ戻り、この厩舎の所属馬が週末のレースに出走するために必要な手続き(出馬投票)の準備をし、出馬投票室へ向かいます。
出馬投票は、毎週木曜日に行われます。出馬投票がない火・水・金曜日は、担当馬の調教が終われば午前中の仕事は終わりになります。
競走馬がレースに出走するために必要な手続きを「出馬投票」と言います。出馬投票は、所定の用紙(出馬投票用紙)に馬名、出走希望日及びレース、騎乗予定騎手名などを記入し出馬投票室で行います。
通常は調教師や厩舎スタッフが行いますが、若手騎手は所属厩舎での仕事の一つとして、調教師から指示され、出馬投票をすることがあります。
11:00
出馬投票後、独身寮に戻り、2時間から3時間程度が昼食や休憩の時間になります。朝が早いため、この時間は休息を取っていることが多いです。
15:00
出馬投票が締め切られ、出馬投票室では週末の出馬表が発表されます。
出馬表には、競馬場毎に、レース番号、馬番号、馬名及び騎手名などが記載されています。
15:10
レースで騎乗する際に騎手が着ている服を「勝負服」と言います。「勝負服」は騎乗する馬の馬主によって決められています。「勝負服」は各厩舎で管理しているので、所属厩舎の出走予定馬の「勝負服」を厩舎で用意することも若手騎手の仕事の一つです。
15:20
週末、この若手騎手は15頭に騎乗予定となりました。そのうちの13頭は所属厩舎以外の馬なので、「勝負服」を受け取るため、騎乗予定馬の厩舎を回ることになります。
各厩舎では、「勝負服」を受け取るだけではなく、調教師や厩舎スタッフとレースに向けての打合せも行いますので、すべての厩舎を回り終えたのは1時間後でした。
午後は、所属厩舎での作業(馬体確認、清掃、飼い葉(馬の食事)の準備など)のほか、他厩舎を積極的に回り、騎乗機会を増やすための営業活動をすることも重要な仕事です。
また、騎手は騎乗予定日の前日の21時までに「調整ルーム」に入らなければならないので、土曜日のレースに騎乗予定がある場合は、金曜日の21時には、トレセンもしくは騎乗する競馬場の「調整ルーム」に入らなければなりません。
16:30
16時半に、出馬投票後の仕事を終え寮に帰宅しました。