JRAの競馬(中央競馬)は、原則として土曜日と日曜日に開催されます。ここでは、平日とは違った、競馬開催日の騎手のスケジュールを紹介します。それでは、ある関東の若手騎手の日曜日を追ってみましょう。
2:45
競走馬の調教は、競馬開催日の朝にもトレーニング・センター(以下トレセン)で行われています。若手騎手にとっては、平日と同様に競馬開催日の調教も重要な仕事です。
騎手は、競馬開催日の前日21時までに騎乗予定競馬場かトレセンの「調整ルーム」に入室しなければなりません。「調整ルーム」への入室は、アスリートとしてのコンディショニング(体調管理を万全にするなど)の他、競馬開催に向けて騎手の外部との接触を避けることを目的としているため、入室後は携帯電話など通信機器の使用も制限されます。
調整ルームには、居室のほかに、食堂、娯楽室、浴室などがあり、浴室には体重調整をするためのサウナも完備されています。
この若手騎手はトレセンでの朝の調教に騎乗するため「トレセンの調整ルーム」に入室しましたが、調教を担当する馬がいない場合は、「騎乗予定競馬場の調整ルーム」に入室することになります。
3:00
朝3時、所属厩舎に到着。平日と同様に厩舎スタッフを手伝うなど、調教の準備をします。
この日の調教の担当馬は1頭のみ。厩舎の周りで準備運動の乗り運動を30分ほど行った後、調教コースへ向かいます。
競馬開催日のトレセンの馬場開場時間は4時。開場後は坂路コースで調教を行います。
4:45
5:00
調整ルームに戻り、急いで準備をして、競馬場へ確実に着くようにするため、JRAが用意したタクシーに他の騎手2名と同乗し騎乗予定のある中山競馬場へ向かいます。
美浦トレセンから中山競馬場までの所要時間は約1時間です。
競馬開催日の朝の調教後のトレセン調整ルームから競馬場調整ルームへの移動手段は、自分の車の騎手もいますが、JRAは騎手から申し出があれば、タクシーを用意(費用はJRA負担)しています。
6:00
この日、競馬場調整ルームに到着したのは朝6時。第1レースの発走時刻の約4時間前です。到着後は競馬場内の「ジョッキールーム(騎手の控え室)」に移動し、朝食を食べたり、仮眠をとったりして、8時頃まで休憩します。
「ジョッキールーム」は、競馬場にある騎手の控え室です。ここには、食堂、仮眠室、浴室などの設備があり、日中、レースの合間に騎手が利用しています。
9:00
騎手は、決められた「負担重量」で騎乗することを義務づけられています。「負担重量」はレース結果に大きく影響するので、騎手はレース前とレース後に検量室でJRA職員による検量を受けなければなりません。
レースの前に行う計量を「前検量」、レース後の計量を「後検量」と言います。「前検量 は第1競走の発走時刻の70分前から騎乗する競走の50分前までの間に受けることとなっています。
「前検量」は、騎手が決められた負担重量で騎乗するよう、レース前に行う計量です。負担重量は、騎手の体重、騎手の装具(勝負服やブーツなど。鞭とヘルメットは含まれません。)及び鞍(鐙などの付属装具を含む。)を総計した重量なので、騎手は「前検量」を受けるときには、これらを全て装備していなければなりません。
レース前後に検量しているように、負担重量は、馬のパフォーマンスに大きく影響するだけではなく、負担重量を間違えて騎乗した場合には、「失格」となりその馬の着順がなくなり、お客様に多大なご迷惑をかけることになるため、とても厳しく管理しています。
また、騎手も決められた負担重量で騎乗するために、日頃から、食事制限や減量などにより体重調整を心がけ、厳しく体重管理をしています。
9:05
前検量を終えると、番号ゼッケンを渡されるので、それを含めて鞍の装備を整えます。
装備が完了した鞍は、調教師や厩舎スタッフまたは騎手が、馬に鞍を装着する(装鞍する)場所である「装鞍所」の「装鞍所検量室」に運びます。
「装鞍所検量室」では、負担重量の確認の一環として、JRA職員による鞍検量(鞍の計量)を受けなければなりません。
9:10
鞍検量を受けた鞍は、装鞍所内の馬房に運びます。
装鞍は、馬房内で、通常2人一組で、馬の左右に分かれて行います。競走当日は馬もテンションが上がっているので、馬に踏まれたり、馬房の壁に挟まれたりしないよう、馬の状況に注意しながら行います。
9:50
装鞍所での装鞍を終えたら、検量室に戻り、レース騎乗に向けて、ヘルメットや鞭などを準備し、定められた時刻までにパドックの騎手控え室に向かいます。
騎手は、パドックの騎手控え室で、まず、負担重量の確認のため、設置されている体重計によりJRA職員の体重確認を受け、その後、騎乗合図があるまで待機しながら、パドックを周回している騎乗馬の状態を確認したり、調教師や厩舎スタッフと打合せをしたりします。
レースの約20分前になると騎乗合図がかかります。騎手は騎手控え室前に整列し、お客様に一礼してから、馬に騎乗します。
9:55
誘導馬を先頭に、パドックを出て馬場へ向かいます。馬場に入場したら、準備運動の「返し馬」をしながら騎乗馬の走りを確認し、コースの脇に設けられた待避所に向かい、発走地点から集合合図があるまで待避所内でゆっくり周回し待機します。
10:10
発走委員がスタート台に上がり、ファンファーレが鳴って全馬がゲートインしたら、いよいよ発走です。
10:15
レースは見事1着でゴール!
レース後は、騎乗したまま検量室前まで戻り、下馬します。馬から鞍をはずしたら(脱鞍)、1位から7位の騎手は、負担重量の確認のため、検量室でJRA職員による検量を受けなければなりません。この検量を「後検量」と言います。
「後検量」対象騎手が全員計量を終了し、負担重量の超過や不足がないことが確認されると、裁決委員はレースの「確定」を宣言します。これにより各馬の着順が確定され、払戻金の表示などが行われます。
検量室にある「検量裁決室」では、終了したレースのパトロール映像(馬場のコーナーなどに設置されている走路監視タワーからの映像)をすぐに見ることができます。
レース確定前には、裁決委員がパトロール映像を使い、騎手にレース経過を確認し、レース確定後は、騎手や調教師などが、レースを振り返ることができます。
10:18
レースが確定すると、優勝馬の馬主をはじめとした関係者はスタンド前のウイナーズサークルに集まり表彰式を行います。
表彰式後は、馬と関係者による記念撮影が行われます。馬主だけではなく、その馬に携わった調教師や騎手、厩舎スタッフにとっても最高の瞬間です。
10:20
レース後にマスコミ・報道関係者へ対応することも騎手の役割の一つです。レース結果や次のレースに向けての意気込み、取組みなどについて、報道関係者からの質問に対して、コメントを提供します。
10:25
この若手騎手は続く第2レースも騎乗しますが、第1レースで優勝し、表彰式に参加しなければならなかったため、次のレースへの準備後、騎乗合図までにパドックへ向かうことが出来ないため、馬場取締委員の許可を得て、検量室付近から騎乗します。
JRAでは、騎手の1日の騎乗回数に制限を設けていないので、1日に行われる全てのレースに騎乗する騎手もいます。
11:40
この若手騎手は、第3レースの騎乗後、第6レースまで騎乗予定がありません。このように次のレース騎乗まで時間が空く場合には、ジョッキールームで身体を休めたり、ストレッチをして、身体をほぐしたりして、リラックスしながら、次のレース騎乗に備えることが多いです。
15:30
この日、この若手騎手の最後の騎乗レースである第10レースが終了しました。レースで使用したヘルメットやブーツ、鞍などの汚れを落とし、この日出走した所属厩舎の馬の勝負服の回収などを済ませたら、自分も入浴してトレセンの独身寮に帰る準備をします。
朝のトレセンからの移動手段はJRAが用意したタクシーでしたが、帰りは電車を使ってトレセンまで帰るようです。
16:30
騎乗レースが土曜日の場合には、全ての騎乗レースが終了した後、金曜日と同様に、翌日のレース騎乗のために、騎乗予定競馬場かトレセンの調整ルームに入室しなければなりません。また、土曜日と日曜日で異なる競馬場で騎乗する場合には、公共交通機関を利用して翌日騎乗する競馬場に移動し、調整ルームに入室します。