川須 栄彦 騎手Haruhiko Kawasu
1991年生まれ。中学までは野球に熱中、乗馬経験はなかったが競馬学校に入学し、第26期生として卒業後2010年にデビュー。2年目に全国リーディング6位となる91勝をあげて注目される。3年目の2012年にはエーシンジーラインで小倉大賞典、ダイワファルコンで福島記念など重賞勝ちも達成。以降も関西リーディング上位を争う存在として活躍中。
騎手になろうと思ったのは、体が小さくてもプロのスポーツ選手になれると思ったからです。僕は子供の頃から体を動かすことが好きで、小学校から中学校と、ずっと野球をやっていました。でも進路を決めるとき、このまま野球を続けてもプロにはなれないと思って他の道を探したんです。その中で、騎手は小柄でもなれるスポーツ選手ということで、チャレンジしてみようと思いました。ただ競馬のことはディープインパクトをスポーツニュースで見たことがあるくらいで、詳しくは知りませんでした。もちろん乗馬経験もありませんでした。
野球では、中学の時はセカンドを守っていました。後から考えれば、野球を頑張ったことで必要最低限の筋力や体力が付いたのは大きかったと思います。それにレギュラー争いとかを通じてガッツみたいなものも培われたと思います。
競馬学校の試験は、まずはとりあえず受けてみたという感じです。中学3年生の夏に野球の大会が終わって、そのあとすぐに1次試験だったこともあり、特別な準備などはしませんでした。運動神経には自信がありましたし、学科に関しても、部活と両立して学校の勉強は一生懸命やっていて、高校受験の準備もしていましたから。でも、受かるとは思っていなかったというのが正直なところです。
未経験者でも受験していいということは、もちろん知っていました。でも当時はそういう受験者はそれほど多くなくて、さすがに少し心細かったことを覚えています。最近は乗馬未経験の受験者も増えているようですね。
1次試験に合格したのは良かったのですが、問題は2次試験でした。合宿形式で馬に乗る項目があって、でも僕は馬に乗ったことがないどころか見たことすらなかったんです。さすがに1回乗ってみないとと思って、急いで乗馬体験ツアーみたいなものを探して申し込みました。
人生初の乗馬体験は2時間のコースでした。感想は……高いし、揺れるし、大丈夫かなと心配になりました(笑)。ところがいざ2次試験では、わりとちゃんとできたんです。というのも、乗馬未経験者と経験者とはまったく別のメニューで、それほど難しいことをするわけではなかったんです。
むしろ僕がたいへんだったのは合格した後でした。少しでも乗馬経験者との差を埋めておこうと、11月から2月まで、競馬学校に紹介してもらった乗馬クラブへ練習に行くことにしたんです。毎日、中学の授業が終わると電車とバスで2時間くらいかけて通いました。もちろん週末もです。帰ってくるともう夜中近くで、すごくきつかったですね。でも、これが我慢できないようなら競馬学校の生活も耐えられないと思って頑張りました。
入学してから最初の1から2か月は初めてのことばかりできつい面もありましたけど、そこを過ぎてからはもう大丈夫でした。教官たちも指導は厳しいですが、それ以外の部分ではすごく良くしていただきました。今でも本当に感謝しています。
実技は、当時は3か月に1回くらいのペースで試験があったんですが、いちばん最初の試験でなんと3位になれたんです。もちろん乗馬経験の長い同期と比べれば技術的な部分はまだまだだったんですけど、入学前の3から4か月間、ほぼ毎日馬に乗っていたことが僕にはすごく良かったんだと思います。人にもよるんでしょうけど、週に1回だけで乗馬経験が何年というのに比べて、僕にはそういう方が合っていたんでしょうね。
とにかく、その試験でほめてもらえたことは、僕にとってすごく自信になりました。馬に乗ることも、どんどん楽しくなっていきました。
僕がプロスポーツ選手を目指したいちばんの理由は、親孝行をしたい、そのために稼ぎたい、と思ったからです。そういう意味で、競馬の騎手はすごく魅力のある仕事です。体が小さくて他のスポーツを諦めたような人にもチャンスがありますし。
そしてお金以上に、騎手はすごく夢のある仕事です。大観衆の前でレースをするということには、普通の人ではなかなか味わえない喜びがあります。負けた悔しさも含めて、すごく華やかな世界です。乗馬経験がなくても、ぜひチャレンジしてみてほしいですね。
「乗馬未経験からでも騎手になれる」インタビュー一覧