ひとつ殻を破ったように感じたのが前走の安田記念だ。昨年のマイルチャンピオンシップでクビ差の2着に好走し、年明け初戦で2度目のマイラーズC制覇と地力を強化して迎えた一戦は、中団追走から直線で鋭く伸びてロマンチックウォリアー、ナミュールに次ぐ3着。一昨年の富士S2着以来となる東京マイル重賞での好走となった。状態面の良化とともに精神面でも充実してきたようで、中間の乗り込み量も豊富。安田記念以来の実戦でも力を出せる態勢にある印象だ。気炎をあげてGⅠへ向かうためにも、前哨戦で好結果を出したいところだろう。

新馬、新潟2歳S、デイリー杯2歳Sとマイルでデビュー3連勝。朝日杯フューチュリティSでもドウデュースの2着に入り、早くからマイラーとしての高い資質を窺わせていた。3歳春はNHKマイルCと安田記念で連続4着と、あと一押しのところでビッグタイトルを逃したが、大輪の花が開いたのはその秋。富士Sで他世代の強豪マイラー達を強烈な追い込みで圧倒すると、勢いそのままにマイルチャンピオンシップでも鮮やかな差し脚で1着となり、見事3歳で頂点に立った。その後は勝利から遠ざかっているが、前走の安田記念も差のない5着。一昨年同様、この富士Sを飛躍のきっかけにしたい。

昨年の京王杯スプリングCで重賞初制覇。今年の同レースでも2着となったが、芝1400メートルの経験はこの2戦だけ。“1400メートルの馬”と判断するのは早計に過ぎるというものだろう。実際、昨年の富士Sでは、次走でマイルチャンピオンシップを勝利するナミュールに0秒2差の2着に入った。また、その富士Sを含めて東京・芝のマイル戦では1着、2着、1着、6着、2着、11着。連対を外した2戦はいずれも安田記念だが、むしろ最適舞台の印象すら受ける。脚質的にも少しムラのあるタイプだが、時に推定上がり3ハロン32秒台という素晴らしい末脚を発揮する馬。決め手比べなら今年も互角の勝負ができるはずだ。

驚かされたのが前走の関屋記念。後方からの追走を余儀なくされ、直線で3着まで追い上げるのがやっとという競馬だったが、マークした上がり3ハロンタイムは32秒5（推定）。直線ほぼ平坦の新潟コースとはいえ、驚異的とも言える瞬発力を見せた。前々走の3勝クラス・水無月S（京都・芝1600メートル）でオープンクラス入りと出世にはやや時間を要したが、3歳時にアーリントンCで4着、神戸新聞杯でも4着に入るなど、能力の一端を早くから窺わせていた。マイル戦に絞った近6走は2着、2着、1着、5着、1着、3着。適性の高さもさることながら、本格化の様相を見せている。ここからさらに上を目指す。

中山マイルで才能が開花したイメージだが、条件クラス在籍時は東京・芝2000メートルで2勝しており、オープンクラス入りは東京・ダート1600メートルで決めたという個性的な戦績の持ち主でもある。とりわけ強調できるのが、1勝クラス（東京・芝2000メートル）を勝った際にマークした1分58秒0という時計だ。優に3勝クラス突破レベルに到達し、この勝ち方が評価され、次走の神戸新聞杯（7着）でも1番人気に支持されたほど。安田記念（14着）、関屋記念（13着）と近2走は大敗を喫したが、速い時計での決着と、瞬発力勝負に対応するだけの素地は備えているはず。改めて素質の高さに注目したい。

オープンクラス復帰に多少の時間を要したものの、昨年のジュニアC（リステッド・中山・芝1600メートル）を逃げて快勝した素質馬。そのジュニアCで折り合いに苦労したように、前進気勢の強さが諸刃の剣となっていた印象も受けたが、折り合いを覚えてからはその前進気勢が爆発力に転化。それに伴い決め手も鋭くなった。特に、4走前の3勝クラス・節分S（東京・芝1600メートル）と前走のオープン特別・関越Sは、どちらも追われてからの反応が抜群。あっという間に前の馬たちを捕らえての差し切り勝ちだった。あのパフォーマンスに加えて、父が短距離GⅠ勝ち馬という血統面からも、マイルこそが最適ではないだろうか。まずは重賞初制覇を目指す。

中京記念優勝は、名手・横山典弘騎手の手腕も存分に発揮された一戦。鞍上の好立ち回りに応えた本馬も立派だった。マイルでの勝利は2勝クラスでのものがあるのみだが、振り返れば2021年の朝日杯フューチュリティSの4着馬。その朝日杯フューチュリティSは勝ち馬ドウデュースが日本ダービーを、2着馬セリフォスはマイルチャンピオンシップを、3着馬ダノンスコーピオンはNHKマイルCを、5着ジオグリフは皐月賞をそれぞれ翌年に勝ったように、ハイレベルなレースだった。4着の本馬もビッグタイトルに手が届くだけの資質は持っているはず。今回はマイルGⅠへの展望を開く一戦になる。

能力の高さをまざまざとみせつけたのが、重賞初制覇となったサウジアラビアロイヤルCだ。9頭立てでさばきやすかった面はあったかもしれないが、見事な直線一気を決めて2着ボンドガールに2馬身差をつけた。そのボンドガールが先日の秋華賞で2着、サウジアラビアロイヤルCで3着のシュトラウスは次走の東京スポーツ杯2歳Sを勝ったことからも、改めて箔がついた格好だ。本馬自身はホープフルSを感冒のため出走取消。今年初戦のNHKマイルCは4着と気を吐いたものの、日本ダービーでは13着に敗れた。しっかりと休養を経て、ベストな舞台での秋初戦。既存勢力を一蹴する可能性は十分にある。