一騎打ちムードとなったヴィクトリアマイル（GⅠ）。昨秋のローズSレコード勝ちと秋華賞2着で評価を高めたマスクトディーヴァか、それともマイルCSに続く2つ目の勲章を狙うナミュールか。だが、レースは意外な結末を見る。鮮やかな差し切りを決めたのは、テンハッピーローズだ。

中山牝馬S逃げ切りのコンクシェルがハナを奪い、一昨年の秋華賞馬スタニングローズ、ターコイズS1着のフィアスプライドは好位へ。これらを見る位置にマスクトディーヴァ、NHKマイルC2着のあるウンブライル、洛陽Sを勝ったドゥアイズらが続き、紫苑Sで豪快な末脚を披露したモリアーナ、そしてナミュールは後方からの競馬となる。

1000メートル通過56秒8という速い流れの中、中団につけたテンハッピーローズの鞍上津村明秀騎手は、「スタートから4コーナーまで思い描いていた以上に上手くいった。あとは直線で、どれだけ伸びるか」と、確かな手ごたえとともに直線へと向かう。

坂を駆け上がりながらフィアスプライドが先頭に立つと、大外から猛然とスパートしたテンハッピーローズが残り200メートルで一気に交わし去る。「自分でもびっくりした。ラスト1ハロンはすごく長かった」と津村騎手は振り返る。

その長い長い1ハロンを最後まで力一杯に駆け抜けたテンハッピーローズは、粘るフィアスプライド、迫るドゥアイズ、内から追撃するマスクトディーヴァの2着争いを1馬身4分の1後方に見ながらの先頭ゴールでGⅠ初制覇を果たす。津村騎手にとってもデビュー21年目でようやくつかんだ、初のGⅠタイトルだ。

朱鷺S1着など1400メートルを主戦場としてきたテンハッピーローズは、マイル戦勝利も重賞勝ちも今回が初。単勝オッズ208.6倍・14番人気の伏兵が、「信じられない」（津村騎手）という衝撃を見守る観衆にも与えた、大波乱の一戦であった。

（谷川　善久）