スプリンターズS（GⅠ）では、昨年の香港スプリントと今春の高松宮記念を制した現スプリント王ダノンスマッシュが1番人気、前哨戦セントウルSを勝利し、阪神ジュベナイルフィリーズ以来となるビッグタイトル奪取に燃えるレシステンシアが2番人気に推された。

この実績馬2頭に続く3番人気に支持されたのがピクシーナイトだ。今春シンザン記念を快勝したものの、アーリントンCは4着、NHKマイルCは12着。その後はスプリント路線に矛先を向けたが、CBC賞2着、セントウルSも2着と敗れ、いまだ1200メートル戦の勝利なしという身だ。鞍上の福永祐一騎手も、素質は認めつつ「まだ馬体のバランスが整っていない。どこまでやれるだろうか？」と半信半疑での参戦だったという。

だが伸び盛りの3歳馬は、期待以上の走りを披露する。

昨年の高松宮記念勝ち馬モズスーパーフレアが快足を飛ばし、函館スプリントSを逃げ切ったビアンフェが続く。ピクシーナイトはその後ろ、内ラチ沿いの好位に収まる。隣にはレシステンシア、その外にはダノンスマッシュと、有力馬たちの圧力を感じながらも600メートル通過33秒3のペースに楽々と対応して、ピクシーナイトは4コーナーを回り切る。

直線。悠然とスパート態勢に移ったピクシーナイトは、残り200メートルを切ったところでモズスーパーフレアを捉え、敢然と抜け出す。最後は、食い下がるレシステンシア、直後から脚を伸ばすシヴァージの2着争いを2馬身後方に見ての先頭ゴール。まったく危なげのない勝ちっぷりで、初のGⅠタイトルをつかんだのである。

「以前から“凄い馬になる”と公言してきたが、“想像を超えた馬”になる可能性が出てきた」と福永騎手。不安がある中での圧勝劇は、確かに大きな期待を抱かせるものだった。馬体が完成したとき、どれほどのパフォーマンスを見せてくれるのか。楽しみが尽きない、ニューヒーローの誕生である。

（谷川　善久）